3.静かな序盤

「さぁ、まずはどちらが出題者になる?。このゲーム、アンタは始めてだから好きな方を選んでいいぜ」
 バンの質問にヴァンが即答する。
「ポイントは質問のしかたではなく、嘘のつき方だな。とりあえずもう1度、解答者をやって様子を見させてもらうよ」
「オーケイ。じゃぁ、始めるぜ。まずオレ様のカードはこいつだ」
 バンは一枚のカードを無造作にテーブルに放り出した。カードは裏向きのままテーブルの中央をやや越えたところまで滑っていき、そこで停止した。ヴァンはその裏向きのカードには目もくれず、相手の表情を観察しながら質問を行った。
「そのカードは「3」か?」
「いいや」
「そのカードは「1」か「2」のどちらかか?」
「あぁ、そうだ。「はい」ってことだな」
「そのカードは「1」か?」
「いいや」
「今から解答を行う。その数字は2だ」
 ヴァンは3つの質問を流れるように行った。考える時間はまったく取っていない。
「正解」
 バンは笑いながらカードを表に向けた。その数字はヴァンの宣言通りの「2」だった。
 バンが「正解」と言ったのは数字に対してではなく、ヴァンが取った行動に対してであった。実はこのゲーム、1回戦めはひどく単純なのである。なぜなら3回質問をすれば、出題者が嘘をつかない限り必ず正解することができるからである。では嘘をついていたとしたら? それでも問題は無い。自分は正解することはできず、0ポイントだが、その代わり出題者には1回の嘘につき、嘘をついたペナルティのマイナス1ポイントが与えられる。嘘をつくのが1回だったとしても、解答者の0ポイントに対して、出題者はマイナス1ポイント。結局1ポイントの差がつくので、正解した場合と変わらないのだ。だから1回戦は深く考える必要は無い。流れるような質問を行ったヴァンの行動は、まさしく正解であった。
「じゃぁ、オレ様の番だな。カードを出してくれ」
 ヴァンは5枚のカードを眺め、そのうちの一枚を選んで、裏向きのままテーブルの中央に置いた。
「オーケイ。そのカードは1か?」
「いいえ」
「じゃぁ、2か3だ」
「いいえ」
「じゃぁ、4だ」
「いいえ」
 両者、何の戸惑いも無く3回の質問と解答が行われた。
「よし、今から解答を行うぞ。そいつは5だ」
 ヴァンは無言でカードを表にした。その数字は1だった。
「ちぇっ、最初ので正解だのか。アンタ本当にこのゲーム始めてかい?」
 バンが言った。今の対戦はバンは正解できなかったので0ポイント、ヴァンの方は最初の質問で嘘をついているのでマイナス1ポイント。トータルで両者とも0ポイントとなった。
 こいつは思ったよりやっかいな相手だぜ、バンは心の中でそうつぶやいた。このゲーム、1回戦において、絶対に嘘をつかなければならない場面というのがある。それは3回目の質問をする前に数字が確定してしまうときである。たとえば今の対戦がそれであった。ヴァンは最初にカードの数字が1であるかと尋ねられた。実際にカードは1であるが、ここで「はい」と答えてはいけない。なぜならそう答えればバンは2回目の質問をすることなく解答を行うからだ。バンにしてみれば、もしそのカードが1でなくても構わない。1以外のカードであればヴァンが嘘をついていたことになるのでヴァンにマイナス1ポイントが与えられるからだ。もし1なら?バンは3ポイントを獲得することに成功する。
 良く考えれば当たり前のことである。だが今この場でいきなりルールを言われ、すぐそのことに気づくことは意外と難しい。最初の質問対して一瞬の躊躇も無く嘘の解答を言うことができたヴァンを手ごわい相手であると感じるのは当然であった。

                 ヴァン     バン
1回戦@(解答者ヴァン)    1ポイント   0ポイント
1回戦A(解答者バン)    −1ポイント   0ポイント

トータル            0ポイント   0ポイント



[前へ] [次へ]
[Back]