「対決1」





1.プロローグ

 白い四角い部屋に一つのテーブルと二つの椅子があり、一人の男がいた。
 4枚の壁には1枚のドア以外何も無い。部屋を彩る装飾品はおろか、窓さえも。
 上から男を照らす光は明るくもなく、暗くもなく、男が手に持った本を読むのにちょうどいい明るさだった。
 男はテーブルを挟んでドアからは反対側の椅子に座っていた。頬づえをつきながら、片手で本を持ち、左目がその上を眺めている。男の右目は眼帯で隠されていた。残された左目には、何か不思議な自信に満ちた光が宿っている。
 男は、細身で黒髪、年齢は20台の後半、名はヴァン・ギルダスといった。

 どのぐらい待っていたのだろうか。ある時、本の上を進んでいたヴァンの左目が、たったひとつのドアのノブに視線を移した。ドアのノブが回り、開いたドアから一人の男が入ってくる。この男こそが、ヴァンの待っていた男だった。
「悪いな、待たせたのかな」
 男はヴァンと同じく、右目を隠し、黒髪だったが、それ以外の類似点はほとんどない。髪はボサボサで。顎には無精髭を蓄え、左目は落ち着き無く視線を漂わせている。その左目に宿る根拠の無い自信に満ちた光が、強いてあげればヴァンとの類似点か。
 男の名はバンといった。それがファーストネームなのか、ファミリーネームなのか、本名なのか、愛称なのか誰も知らない。ただバンとだけ呼ばれていた。ただ彼はそれが気に入らないらしく、バンと呼ばれると大抵こう言う。「バン様と呼べ」と。

「できればこんな無駄なことに時間は費やしたくなかったが…」本を閉じ、テーブルの上に置きながらヴァンが言う。「どうやら断れない不思議な力が働いているようでね」
「それが運命ってヤツさ」
 バンが口元に不適な笑みを浮かべながら答えた。



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